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2022-01-01から1年間の記事一覧

カルトについて少しだけ

まず最初に、確かジジェクか何かの本に載っていた小話から始めたい。 とある街に仲の悪い夫婦がいた。夫が家に帰れば、妻から皮肉やら罵詈雑言やらを浴びせかけれてしまう。ほとほとに疲れてしまった夫は、家の外に愛人を作り、不倫をするようになった。その…

内田樹の「アメリカン・ミソジニー」という文章について

私は内田樹というエッセイスト(本来ならばレヴィナス研究者という肩書のほうが適切ではあるが、いわば文章としてはこちらのほうが適切な書き方になるだろう)の文章をたまに読んだりする。それは内田樹の文章が、ときどき、限りなくヘンなことがあるからだ…

古典を読んでいるときに露骨な偏見やら、穿った意見が出てきて妙な気持ちになることがある。最近の例でいうと、モンテーニュの『エセー』を読んでいたときに、次のような文章が出てきて、なにやら不思議な気持ちになったりていた。(以下の引用は、岩波文庫の…

ダブルスタンダードについて、あるいはなぜ大人は汚いのか

確か、ちくま新書の『満たされない自己愛』という本に書いてあったと思う。メモを紛失したので、正確な内容を提出することが出来ないが、人が怒る理由のトップは、不当に扱われたとか、あるいは無碍にされたとかそういうものではなく「ルール違反に対する怒…

不能を恐怖するということ

たぶん、女性にとって一番男性の解らないところの一つに、不能恐怖があるということだろうと思う。言わば週刊誌などを見てみると、驚くほどインポテンツを治すことについて煽っているし、それは女性の避妊薬(ピル)が認可が遅れたのと違い、六ヶ月という異…

マイナスとマイナスをかけたらプラスであることについて

私は一時期、整数論を少しやっていたことがある。やっていた、とはいえ、実際のところはテキストの最初のほうを流し読みしたくらいで、実際のところは「なるほど、わからない」ということで、その整数論の教科書みたいなものを直しては諦めたりしている。 そ…

防御は最大の攻撃

私は二年前ほど、文章修行だと言わんばかりに、図書館に毎日出かけては、一生懸命ノートを取っていたことがある。久しぶりにそのノートの一つであるスローターダイクの『シニカル理性批判』を取り出して眺めているのだが、本の実際にその根拠というか論旨と…

動物を性的に見ることについて

宗教に於いて、禁則事項というのがたびたび問題になる。昨今の問題で言うと、例えば同性愛を認めるかどうかという問題が、その一つであり、今日でもキリスト教原理主義者は同性愛に対して強い拒否反応を示すことがたびたび指摘されてはいる。 しかし、動物性…

真木悠介氏の『気流の鳴る音』には、こんな文章が書かれてある。 身体障害者がたとえば片手で食事をする。ごはんをこぼしたり奇妙な身の動かし方をしたりする。それは一般の人間にコッケイだという感じを与える。しかしそれを笑ったりすることは許されないこ…

1994年の『社会学辞典』から「搾取」という言葉を調べる

つい最近、死去なされた社会学者の見田宗介が編集委員となって発刊された『縮刷版・社会学事典』が手元にある。今となっては時代背景もあり、古臭い説明も多いのだが、しかし同時に現代的な説明ではないが故に、はっと見開かされることがある。例えば、「搾…

ライオンは立派だが、狼はやっぱり悪党だ

良く知られていることであるが、グリム童話はグリム兄弟によって集められた昔話が元になっている。しかし、その昔話というのが、いわば上品な方々が顔を顰めるものであったため、版を重ねるごとに改修されていき、いわば元の話とは似つかぬものになってしま…

真実を口にすれば嫌われる

つい最近、『サミング・アップ』(モーム)を読んでいたのだが、そこに興味深い一節があった。 もし真実が最高の価値の一つであるのなら、真実がなんであるのかが誰にも正確に分からないというのは奇妙だ。哲学者は真実の意味に関していまだに争っていて、対…

人を騙すために本当のことを言う

内田樹の『他者と死者』(文春文庫, 2011) という本には、フロイトの『機知』に書かれていたというジョークが引用されている。 列車の中で独りのユダヤ人がもう一人のユダヤ人に尋ねた。 「どこへ行くのかね」 「レンブルクさ」 すると尋ねたユダヤ人は怒っ…

鈍感化する社会、あるいはマナーの起源

私の知人に少し変わった知人がいた。 その知人はパスタが大好きだ。それだけだったら普通なのだが、パスタが好きなのにも関わらず、箸で食べるのを好んでいた。それで、箸でなんで食べるのか聞いてみたところ、食器と金属がぶつかる音に耐えることが出来ない…

無縁の居場所

私は喫煙者である。 そして、パイプたばこを嗜んでいる。 しかし、パイプたばこというのは、コンビニには置いていない。なものだから、わざわざ自宅から離れたタバコ屋に買いに行くことになる。だいたい徒歩にして二十分程度なのだが、その途中に無縁仏を供…

拝啓、市民社会

ネットの知り合いつてでオフ会に出かけた時のこと、私の活動を昔から知っている精神科業の方が「似非原さんはパブリックエネミーですから」と述べたことをヘラヘラと笑いながら「まぁ、そうだよね」と思いながらスルーしていた。だが、帰って一人で1.8リット…

あまりにも現実的な戦争

何かの惨事が勃発した時、まず最初にそれがどれだけ「非現実的なもの」であるか語られることがある。9.11の時もまさに「これは果たして現実であるのだろうか」という問いから出発していたと思う。 だが、一方で「まさにこれが現実なんだ」と思わされる惨…

「認知の歪み」のことだけ考えてもどうにもならない

スピノザは『エチカ』において「誤った観念が有するいかなる積極的なものも、真なるものが真というだけでは、真なるものの現在によって除去されはしない」と述べている。これは複雑ではあるが、この一文(スピノザは定理と呼んでいるが)の備考によれば、こ…